NF OFFLINE FROM LIVING ROOM

INTERVIEW

サカナクション 山口一郎が語る
オンラインライブの可能性と
LIVING ROOMからの挑戦

「ネガティブな気持ちで延期するのではなく、オンラインでどういう表現ができるのかを考える方がポジティブになれる」

山口一郎が、5/22(土)、23(日)の2日間、単独でライブ配信《NF OFFLINE FROM LIVINGROOM》を開催する(5/22はファンクラブ会員限定公演、5/23は一般公演)。

これは本来、5/11からスタートする予定であったファンクラブ会員限定Zeppツアー《NF OFFLINE》の延期を受け、急遽、決定したものだ。

山口:

5/7に、僕らは《NF OFFLINE》の最終リハーサルをしていたんです。その現場には、総合演出をしてくださる田中裕介監督(※)をはじめ、PAや照明、舞台監督など、ずっと一緒にライブを作ってきた“チーム・サカナクション”のみんながいて。その時に緊急事態宣言の延長が発表されて、5月中の公演を延期することにしました。

そこで、「ライブが延期になるなら、この企画をオンラインで見てもらおう」と話したんです。ネガティブな気持ちでツアーを延期するのではなく、オンラインならどういう表現ができるのかを考える方がポジティブになれるし、ワクワクできる。現状を打破して、新しい表現を発明していくことが、もう死語かもしれないけど、僕の中でのロックなのかなって。そこから、どういう考え方で、どんな規模でライブ配信を行うか、一週間足らずで内容を詰めていました。

※田中裕介:
サカナクション、Perfumeなど数多くのMVやCMを手がける映像監督。去年8月開催のライブ配信《SAKANAQUARIUM 光 ONLINE》に引き続き、《NF OFFLINE FROM LIVINGROOM》の総合演出を担当する。

ここで鍵となる《NF OFFLINE》は、そもそも、どのようなツアーを想定していたのだろうか。

山口は昨年春、コロナ禍により数多くのライブ・エンタテインメントが延期・中止を余儀なくされる中で、いち早くInstagram Liveを活用し、リスナーと積極的にコミュニケーションを図ってきた。その試みは、不定期レギュラー配信《深夜対談》として、今なお継続中だ。

山口:

僕はその時期、Instagram Liveでいろんなことをインプットできたし、みんなに救われて、コロナ禍を乗り越えられたという感覚を持てたんですね。だから《NF OFFLINE》はその延長線上のものとして、自分の部屋をそっくりそのままZeppのステージに再現して、僕が普段Instagram Liveをやっている様子をオフラインで覗いてもらう、そんなファンクラブ会員限定のイベントをやろうと考えたんです。しかも、ただ僕が弾き語りをするのではなく、サカナクションのメンバーがリアレンジしてくれた楽曲を僕が歌う。つまり、僕がメンバーの想いをイタコのように背負いながら(笑)、全国のZeppを一人で周る予定だったんです。

「発信する僕らもまだ、実際に蓋を開けてみないと分からない部分がたくさんあって(笑)」

そうした《NF OFFLINE》のコンセプトを、オンラインでのライブ配信という手法で、どう再解釈し、表現するのか。チーム・サカナクションで議論を重ねた結果、そもそもの原点である山口の自宅部屋から実際にInstagram Liveを行い、その世界観にリアルタイムな演出を加えながらそれをライブ配信するという、言ってみれば逆輸入的な、実にユニークなアイデアにたどり着いた。

つまり、22日と23日の2日間、山口はこれまでと同じように自宅から、自身のアカウント(@ichiroyamaguchi)でInstagram Liveを行い、歌う。その様子は、Instagramで誰でも見ることができるが、カメラは1台だけのワンカットであり、音についてもInstagram Liveの仕組み上、モノラル音声となる。

山口:

だけど有料のライブ配信では、Instagram Live画面の外側で行われる照明や映像、グラフィックスの演出を、いろんなカメラアングルで、Instagram Liveの配信前から配信中、配信後も楽しんでもらえる。その映像や空間演出、カメラワークは、去年8月のライブ配信《SAKANAQUARIUM 光 ONLINE》と同じ映像チームが担当します。

さらにサウンドも、サンプリングリバーブという技術を使って、僕の部屋固有な響きを立体的に体感してもらえる。そうやって、僕の部屋の中で可能な限りの演出を行うことで、ドキュメンタリーかつファンタジーな、ちょっと特殊なライブをリアルタイムで配信しようと考えているんです。

とにかく、まったく新しい発想のライブ配信であるため、この日、一体どのようなことが行われるのか、なかなか把握しきれていないという人もいるだろう。そういう人は、テレビドラマの設定に置き換えると想像しやすいかもしれない。つまり、こうだ。

ある役者が、自宅から一人芝居によるドラマをテレビで生中継するとしよう。その劇中、役者がスマートフォンを手にしてInstagram Liveを始める。するとInstagramのフォロワーは、画面越しに役者の顔を見て、台詞を聞くことができる。ただ、それはあくまでもスマートフォンのカメラとマイクで切り取られた演技のワンシーンにすぎず、ドラマの全貌までは分からない。

一方で、テレビ画面で生中継を見ている視聴者は、演技はもちろん、役者がInstagram Liveを配信している様子そのものや、その背景、部屋のインテリア、照明なども含めて、ドラマのストーリー全体をリアルタイムに鑑賞できるというわけだ。

この“役者”が山口であり、“一人芝居のドラマ”が《NF OFFLINE FROM LIVINGROOM》のパフォーマンス、“台詞”が音楽、そして“テレビ画面”が有料チケット購入者の視聴デバイス画面、ということになる。

山口:

でも正直、発信する僕らもまだ、実際に蓋を開けてみないと分からない部分がたくさんあって(笑)。だけどライブ配信を見てもらえたら、絶対にビックリすると思うし、特にサカナクションの音楽に興味がある人なら、きっと「なんだこれは?」っていう、不思議な感動が得られるはずだと思っています。

最近のエンタテインメントって、事前に、誰が/何を/どうするのかが分かっているものばかりじゃないですか。それはサービスとして大切だけど、ひとつくらい、「何をやるのかよく分からないけど、たまたま見たらすごく面白かった!」っていうイベントがあってもいいんじゃないかと思うし、僕はそういう方が楽しいんですね。だから今回のライブ配信は、その実験という側面もあるんです。

「自分の家でどこまでやれるのか。大人たちの究極のDIY配信。」

実はさらにもうひとつ、今回のライブ配信には山口の大きなチャレンジが秘められている。

サカナクションは昨年、《SAKANAQUARIUM 光 ONLINE》という大規模なライブ配信を行い、約6万人の視聴者を集め、大成功を収めた。

その彼らが今回挑戦するのは、自宅部屋という最もミニマムかつ条件面で制約の多い環境。ここで、どれだけ高いクオリティのライブ配信が行えるのか。これも興味深いひとつの実験なのだ。

山口:

これが上手くいけば、今後はホール以外、例えば屋外の神社やダムの上からでもライブ配信ができるようになるし、ライブ配信の可能性も、表現の種類も広げられる。そうすれば、コロナが終息して元の世界に戻った時に、「CDを出して、ツアーをする」というミュージシャンのルーティンに、僕らは「オンラインでの表現」というものを付加した活動ができるし、今までのシステムをアップデートしていけると考えているんです。

でも、いざ自宅でリハーサルを始めようと思ったら、やっぱりいろいろ大変で(笑)。まず電源の問題。何せ一般家屋ですから、普通の家庭用のコンセントしかなくて、ライブ用の機材を使うと電源容量が足りなくなるんですよ。それで普通は、ライブ会場にジェネレーター車っていう電源車を用意するんですけど、住宅街で夜にそれを使うのも難しくて。他にも、PAコンソールは一体部屋のどこに置くのかとか、とにかく今、自分の家でどこまでやれるのか、チーム全員が全力で頑張ってます。もうね、大人たちの究極のDIY配信というか、まるで学園祭ノリですよ(笑)。

そう笑顔で語る山口だが、こうした前代未聞の実験だからこそ、まずファンのみんなに見てもらいたいと彼は続ける。

山口:

東日本大震災の時は、自分の目で東京を見て、それを「エンドレス」や「years」という音楽で表現できました。でも今回のコロナ禍って、世界的に起きていることで、どこに行ってもライブができない。そういう特殊な状況で、自分は何を表現したらいいのか、すごく迷っていたんです。そんな時に、Instagram Liveでリスナーのみんなと話ができて、いろんな職業の人たちが、僕らの音楽で「励まされた」と感じていることも知れたし、自分が考えていることや、何か新しい試みを話すと、しっかりとリアクションしてくれて、時には指摘もしてくれて、すごく協力もしてもらえた。それで僕は、「仲間を見つけられた」という感覚になれたんです。

《光 ONLINE》という新しい表現に挑戦しようというアクセルも踏めたのも、ピンチをチャンスに変えようと考えられたのも、今のうちにいろんな実験をしておかなくちゃと思えたのも、みんなとのコミュニケーションがあったからこそ。だから、《NF OFFLINE FROM LIVINGROOM》という実験も、最初にみんなに見てもらいたくて、初日はNF member(ファンクラブ会員)限定としました。

ただ、コロナ禍という状況でファンクラブを離れざるを得なかった方や学生さんもいらっしゃるでしょうし、そういう方たちで、僕らの実験に興味を持ってくれる人たちも《NF OFFLINE FROM LIVINGROOM》を体験してもらえるように、2日目を一般公演にできたのはよかったなって思っています。あと、たまたま初日のInstagram Liveを覗いて、それで気になったという方にも、ぜひ2日目の有料ライブ配信や、そのアーカイブを見てもらいたいですね。

それでもやっぱり、NF memberにはぜひとも2日間とも見て欲しい。すごく短期間で作り込むから、初日はとんでもなく緊張感がみなぎるライブ配信になると思うし、2日目は、そこから相当なブラッシュアップができると思っているので、その違いも体験してもらいたいです。それと、6月からはリアルなライブ《NF OFFLINE》も始まりますが、そのチケットを持っているNF memberも、今回のライブ配信を見ておくと、リアルなライブをより楽しめるようになるので、ぜひライブ配信もリアルなライブも、両方とも楽しみにしていてください。